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いよいよ明日は、映画祭当日。
今夜は、江戸博での準備で大わらわ。
展示を準備するチーム。パンフレットに挟み込みを行うチーム。
幾つもの団体からお借りしたラジオを数えているラジオチーム。
みんなで「明日への一歩」を踏み出すために一丸となっている。
そして、こちらもとある準備。
両国駅にほど近い小さなカフェ。
毛糸屋さんがやっているこのお店の前には大きな毛糸玉のオブジェ。
店内には、毛糸が何処かしらに使われている絵画の数々。
そしてコーヒーの良い香り。大きなテーブルの真ん中にはフランスのウエディングケーキのクロカンブッシュが置かれている。
いつもは早く終わってしまうお店も本日は貸切。
小さな小さな案内ボード<周人&さっちゃん ゆびきりパーティ>と書かれている。
その横には、布がかかった大きな看板が置いてある。
「さて、準備OKよ。順番は間違えそうだけどね。」
さっき成田空港から到着したばかりのエルザが、案内板を読んで肩をすくめる。
そこに、勢津子と一緒にさっちゃんのパパがやってきた。
「じゃあ、はじめよっか。」エルザの声で、元気を先頭に、音松、七海、はるみ、さっちゃんのママ、佐緒里、そして祐一が入ってきた。
「周人、おいで。」勢津子が入口に声をかける。
オルゴールのウェディングマーチが流れる。
七五三のようなスーツ姿の周人と淡いピンクのドレス姿のさっちゃんと入ってくる。
二人でエルザのブーケを持っている。
さっちゃんのパパは、びっくりして今にも泣きそうな顔で二人の様子を見ている。
牧師姿の恰好をした音松が、二人を迎える。
「よぅ、周人くん。さっちゃん。二人は大人になってもずっと仲良しでいることを約束するかい?」
「はい。」二人いっしょに応える。心なしか大人びて見える。
「周人くん。将来、映画監督になることを約束するかい?」
「はい。音声ガイドもちゃんとつけます!」
「おぅ、それでこそ男だ!」
「はい!」周人がもう一度大きな声で返事をする。
「さっちゃん。大きくなったらエルザちゃんみたいなお嫁さんになるかい?」
「うーん。周人お兄ちゃんのお嫁さんになる。」さっちゃんが元気よくこたえる。
にっこりする音松。
「良かったなぁ、よし、じゃあ、ゆびきりげんまんだ。」音松が両方の小指を見せる。
ゆびきりげんまん、うそついたら・・・。
「さっちゃん、うそついたらママに怒られるからうそつかないもん!」
さっちゃんのママは、恥ずかしそうに顔を赤くしています。
さっきまで泣きそうだったパパは、優しくママを抱きしめました。
「さっちゃん、ブーケトスやろうか。」周人は、そっとさっちゃんに話しかけました。
さっちゃんは、コクリとうなづき「佐緒里おねえちゃん!」と大きな声で呼びかけると、ブーケを床に置きました。
ブーケには赤い毛糸が結びけられています。
佐緒里の後ろに立っていた七海が、毛糸をタイミング良く引っぱります。
ブーケは、佐緒里の前でピタリと止まりました。
「さぁ、取り上げて!」エルザが待ちきれず声をかけます。
佐緒里が、少し緊張した顔でブーケを手にして祐一を見ました。
祐一は、顔をくしゃくしゃにしています。
この瞬間、看板の布がめくられました。
『祐一&佐緒里の結婚式へようこそ~明日の一歩が大きな一歩になりますように~』
と、書かれていました。