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みんなで踏み出そう! 明日への一歩を 13

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いよいよ明日は、映画祭当日。
今夜は、江戸博での準備で大わらわ。
展示を準備するチーム。パンフレットに挟み込みを行うチーム。
幾つもの団体からお借りしたラジオを数えているラジオチーム。
みんなで「明日への一歩」を踏み出すために一丸となっている。

そして、こちらもとある準備。
両国駅にほど近い小さなカフェ。
毛糸屋さんがやっているこのお店の前には大きな毛糸玉のオブジェ。
店内には、毛糸が何処かしらに使われている絵画の数々。
そしてコーヒーの良い香り。大きなテーブルの真ん中にはフランスのウエディングケーキのクロカンブッシュが置かれている。
いつもは早く終わってしまうお店も本日は貸切。
小さな小さな案内ボード<周人&さっちゃん ゆびきりパーティ>と書かれている。
その横には、布がかかった大きな看板が置いてある。
「さて、準備OKよ。順番は間違えそうだけどね。」
さっき成田空港から到着したばかりのエルザが、案内板を読んで肩をすくめる。
そこに、勢津子と一緒にさっちゃんのパパがやってきた。

「じゃあ、はじめよっか。」エルザの声で、元気を先頭に、音松、七海、はるみ、さっちゃんのママ、佐緒里、そして祐一が入ってきた。
「周人、おいで。」勢津子が入口に声をかける。
オルゴールのウェディングマーチが流れる。
七五三のようなスーツ姿の周人と淡いピンクのドレス姿のさっちゃんと入ってくる。
二人でエルザのブーケを持っている。
さっちゃんのパパは、びっくりして今にも泣きそうな顔で二人の様子を見ている。
牧師姿の恰好をした音松が、二人を迎える。
「よぅ、周人くん。さっちゃん。二人は大人になってもずっと仲良しでいることを約束するかい?」
「はい。」二人いっしょに応える。心なしか大人びて見える。
「周人くん。将来、映画監督になることを約束するかい?」
「はい。音声ガイドもちゃんとつけます!」
「おぅ、それでこそ男だ!」
「はい!」周人がもう一度大きな声で返事をする。
「さっちゃん。大きくなったらエルザちゃんみたいなお嫁さんになるかい?」
「うーん。周人お兄ちゃんのお嫁さんになる。」さっちゃんが元気よくこたえる。
にっこりする音松。
「良かったなぁ、よし、じゃあ、ゆびきりげんまんだ。」音松が両方の小指を見せる。

ゆびきりげんまん、うそついたら・・・。
「さっちゃん、うそついたらママに怒られるからうそつかないもん!」
さっちゃんのママは、恥ずかしそうに顔を赤くしています。
さっきまで泣きそうだったパパは、優しくママを抱きしめました。

「さっちゃん、ブーケトスやろうか。」周人は、そっとさっちゃんに話しかけました。
さっちゃんは、コクリとうなづき「佐緒里おねえちゃん!」と大きな声で呼びかけると、ブーケを床に置きました。
ブーケには赤い毛糸が結びけられています。
佐緒里の後ろに立っていた七海が、毛糸をタイミング良く引っぱります。
ブーケは、佐緒里の前でピタリと止まりました。
「さぁ、取り上げて!」エルザが待ちきれず声をかけます。
佐緒里が、少し緊張した顔でブーケを手にして祐一を見ました。
祐一は、顔をくしゃくしゃにしています。

この瞬間、看板の布がめくられました。
『祐一&佐緒里の結婚式へようこそ~明日の一歩が大きな一歩になりますように~』
と、書かれていました。

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みんなで踏み出そう! 明日への一歩を 12

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夕方。
「じゃあ、ブーケ。七海さんにお預けしますね。」
さっちゃんのママが、七海にブーケをあずける。
「七海お姉ちゃん、結婚するの?」
「私じゃなくてね・・・。さっちゃんにはまだ内緒。」
七海がにっこりする。
「さっちゃんも、映画祭行くのでしょ。」
「うん、周人お兄ちゃんと一緒。あ、パパも来るって。」
七海が、さっちゃんのママと顔を見合わせクスッと笑う。
何やら意味深・・・。

「そういえば、先ほど、レストランリサーチしてきましたよ。」
さっちゃんのママが地図を広げる。

今年の映画祭は、昼食の休憩時間をいつもより長く、1時間30分あるけれど、
みんなの気になるところよね。
まず、江戸東京博物館内。
ホール入口を背にして右に進んだ出口に2件と7階に1件。
1.緑茶処「両国茶ら良(りょうごく さらら)」 主にスウィーツだけれど、うどんが美味しい。
2.フィンズ(カフェレストラン) 洋食を中心としたファミリーレストラン。
3.7階にあるレストラン 桜茶寮(さくらさりょう)江戸のレシピを現代にアレンジしたお食事。
JR両国駅付近
居酒屋「はなの舞」ランチタイムで定食がある。他にはマクドナルド、サンマルクカフェや駅改札向かいにビアホール&カフェ、ガード下にはペッパーランチや丼屋さん、ラーメン屋さんがある。
大江戸線両国駅~JRを背にして進むと第一ホテルがありレストランももちろんある。

「と、こんな感じかしら・・・。新しいお店を発見できなくて残念だけど、こんなお店を見つけたよーとか、あるよーって知らせてくれる人もありそうね。」
さっちゃんのママは、映画祭初参加。とってもワクワクしています。
そして、サプライズも・・・。

みんなで踏み出そう! 明日への一歩を 11

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「去年は、不思議だったよなぁ」
江島杉山神社にある洞窟の前で、音松がつぶやいている。
昨年の映画祭当日の朝も、音松を始め実行委員の有志たちが、映画祭成功祈願を行った。
そして、点字の石碑、墨字の説明文をみんなが、読み始めたその時、エルザの友達の七海の声が全員の心に響いた。
(詳しくは第5回映画祭物語「思い出そう大切なこと」参照http://citylights.halfmoon.jp/eigasai5/)

「そうだったわね。今日は、七海さんは?」佐緒里が音松にきいている。
「おぅ? 今日はね、違うんだ・・・。」音松、何だか歯切れがわるい。
「七海おねえちゃんはね、後で、お家に遊びに来てくれるんだ。えっとね、ブー・・・。」
「さっちゃん、ダメだよ。」周人があわてて止めに入る。

「なぁに?みんなして」首を傾げる佐緒里。
「佐緒里さんのフィアンセは、今日退院なのでしょう?」勢津子がたずねる。
「ええ、そうです。やだ、みなさんご存知なの?」恥ずかしそうな佐緒里。
「二人の出会いは、そりゃ劇的だったよ。その場にいたこっちが恥ずかしくなるくらいだったよ。」

2010年10月9日土曜日、小雨まじりのこの日行われた同行鑑賞会『悪人』
で、祐一と佐緒里は出会った。そりゃもう、あっつあっつ。お茶会の中華料理屋さんのおこげよりよほど熱いと言えばわかってもらえるだろうか。
この鑑賞会は、当時、池袋チームのかおると名乗っていたハカラメさんと、新宿チームのかおる(実は私)が「ダブルかおる」として一歩を踏み出した作品でもある。二人は今でも、もちろん仲良しである。と、この二人も実は祐一のあまりのカッコ良さに主演の妻夫木さんの面影、いや、『悪人』の清水祐一そのものを重ねあわせていた。
「ねぇ、あの人かっこよかね。」
「ほんと、映画の祐一が飛び出してきたみたいよ。」
「いや、映画じゃなか、小説よ。」
参加者からも口々に声が上がる。
何故みんな、九州の方言になっているのかはわからないけれど・・・。

「みなさん、初めまして、竹井祐一です。」
「えっ、ユウイチ・・・。」前に座っていた佐緒里の瞳は祐一に釘付け。
「僕は、小説を読んで・・・。」自己紹介をしていた祐一が佐緒里の視線に気づく。
「よろしく・・・。」祐一は、話を終えることなくそのまま着席。
赤い糸どころか、赤い鎖がガッチャンとつながった瞬間だった。
なので、結婚すると聞いたときは誰も驚かなったのだけど・・・。
結婚式が延期になったときは、音松は白杖を取り落しそうになったし、エルザが号泣して元気の元気までなくなったり・・・。その時は、独身最後で飲み歩いていたことが原因とは、誰も知らなかったからなんだけどね。後で、エルザから大きなライオンの手形が送られてきたことはナイショみたいです。

みんなで踏み出そう! 明日への一歩を 10

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「お父さん、『どら平太』の音声ガイドモニター、無事に勤められました。見守ってくれてありがとうね。」
勢津子は、夫の遺影に話しかけている。
「孫の周人も、立派に育っていますよ。きっと生きていたら、可愛くって仕方がなかったでしょう。娘が結婚する時、あれだけ反対して、結婚式では男泣きに泣いて…。今では懐かしい思い出ですね。私は、あなたが泣いたのを見たのはその時だけでしたね。両親が亡くなった時も泣かず、取り仕切っていたものね。少々冷たいかしら?とも思ったけど、無言でじっと遺影を見つめるあなたの眼差しを見た時、あぁ、あなたなりに悲しんでるのねと思って、その男っぷりに改めて惚れ直しちゃったのよ。…あら、恥ずかしいわね。それじゃあ、今日も1日、見守っていてくださいね。」
「おばあちゃん、そろそろ出かける時間だよ。」

映画祭の成功を祈願して、両国にある江島杉山神社にお参りに行くのである。

江島杉山神社とは・・・。
視覚障がい者に、針、按摩を職業としてあたえた杉山和一総検校を祀った神社で、点字による石碑などがある。(江島杉山神社公式ホームページ http://ejimasugiyama.shin-to.com/)

「周人は、今日はさっちゃんも一緒だね。」
「うん。」周人は恥ずかしそうにうなずく。

二人の出会いは、『どら平太』の勉強会。
さっちゃんのママが、エルザと七海の大学の先輩で同じサークルだったことから見学に来たのである。大人たちの中に交じって、子どもが二人。当然、大の仲良しになった。

みんなで踏み出そう! 明日への一歩を 9


さて、さてさて、諸事情により物語はぐーんと飛び・・・。
映画祭まで残すところあと2週間。
勢津子と周人が参加した『どら平太』の音声ガイド勉強会は無事に終わり。
祐一が参加できなかった『遠い空の向こうに』の字幕収録も終わり。
音松、はるみがモニター参加していた『遠い空の向こうに』の音声ガイド勉強会も無事に終わり。
元気とエルザが飛び入りで登場している、映画祭パンフレットの原稿も無事完成。
そして、トークショーやロビー展示などの準備も着々と進んでいる。
あとは、映画祭の日がお天気であること、沢山の人が来てくれること。来てくれたみんなが楽しめる1日であることを願うばかり・・・。

「早くエルザお姉ちゃんに会いたいな。」
さっちゃんは、うれしそうにしています。
「そうだね、映画祭の日まで良い子にしていたらエルザちゃんに会えるよ。」
パパが、にっこりして話しています。
今日は、父の日です。
ママは、パパにごちそうを食べてもらおうと一日中ごちそうを作っています。
日ごろ、仕事で忙しいパパは、さっちゃんとお話することが何よりの癒しです。
「さっちゃんは、大きくなったら何になりたいの?」
「うーん、エルザお姉ちゃん。花嫁さんだし、外国に住んでるし、元気お兄さんの奥さんだし。うーん沢山なりたい。」
「そうか、エルザお姉ちゃんになりたいのか」
パパは、リビングに飾ってあるブーケに眼をとめました。
「さっちゃんもお嫁さんになるのか・・・。」
こんな時、パパは複雑な心境のよう。
「さっちゃんは、誰のお嫁さんになるの?」
パパは、答えを期待している様子でさっちゃんを見る。
「うーん、周人お兄ちゃん!」さっちゃんは、元気よく答える。
パパは、こころなしかガックリしている。
こんな時、父親は「パパ」と言う元気な答えを期待しているのか・・・。
「周人お兄ちゃんって、誰かな~。」
「ドラえもんの周人お兄ちゃん!」
・・・どらはどらでも『どら平太』なのだけど・・・。

みんなで踏み出そう! 明日への一歩を 8


翌日。
「えーっ、只今、日曜日の32時、その日のうちに来たでしょ?」
字幕朗読に参加していた七海が、祐一の病室に顔を出した。
「何よ、32時って、朝8時じゃない。今は10時だから、それを言うなら34時よ。」佐緒里が素早く突っ込む。
「だって、映画祭で総合司会をしてくれる、演劇結社ぽっちゃりぽっちゃりの朗読会のブログのパクリだもんね。フェイスブックでも結構、話題だったのよ。」
七海は、笑いながら話す。
「あれは斬新で使いたくなるフレーズね。」
「そういえば、「映画祭物語」や「明日への一歩」の募集もフェイスブックで流れていたわよね。」
「映画祭の情報も、こんな風にして広がって行くといいよな。」祐一も頷いている。
「そうね。こうした映画祭があるよーってしってもらうことが、次につながるし。興味がある人は来てくれるものね。」
「最近、シティライツのみんなでも、随分やってるよね。」七海の瞳が輝く。
「何かな?」佐緒里が首をかしげる。
「えへ、宣伝しちゃおっと!」
「そうくると思った・・・。みんな、シェアやいいねをしてくれると良いね。」
佐緒里と七海は、大きくうなずく。

「ところで、字幕朗読はどうだったんだ?」祐一が急かす。
「ん?あ、ナイショ。ナイショって言いに来たの。
詳しくは当日のパンフレットを読んで欲しいから言っちゃダメなの」
それだけ言うと、七海は足早に 病室を後にした。

祐一は、口をあんぐりしたまま見送るしかなかった。
 そう言われちゃ仕方がないね。

みんなで踏み出そう!明日への一歩を 7


「映画祭には、退院できるよ!」
祐一は、病室に顔を出した佐緒里に満面の笑みを浮かべ報告した。
「ふぅん、良かったねー。」佐緒里は何処か涼しげにこたえる。
「えっ、何?」祐一は、そんな佐緒里の態度に首をかしげながら、何かしでかしたか考えている。意外に小心者だったりする・・・。
「今日は何の日かな?」
佐緒里の言葉に、祐一の頭の中はフルスピードで回転中である。
「ゴメン、すまなかった。」謝る祐一。
「はぁ?何かさぁ。取り敢えず謝っておこうって態度が見え見えだよね。」
今日の佐緒里は、どうやら機嫌が悪い。
「謝る相手は、私じゃないでしょ! 母の日!」
「何だ、そんな事か。」祐一は急に得意げに話はじめる。
「昨日、ポストカード送ったよ。 元気たちみたいに、ここから見える富士山を写真に撮ってポストカードにした。あ、富士山の上にロケットが飛んでいく絵を描いたけど。ほら、映画祭のチラシっぽく。」と言って枕元に置いてある第6回City Lights映画祭のチラシを
手に取った。
今年のチラシは、二人の侍が、真っ直ぐな飛行機雲を描いて飛ぶロケットを見上げている絵が描かれていて、背景には富士山もある。

「そうなのね。私もメッセージ書きたかったな。」
「なぁ、それはそうと今日って、字幕朗読の収録日じゃないか。行かなくていいのか?」
「今年は、あなたが入院しているし、七海さんに代わってもらったの。」
「そうか、様子を聞きたかったな。」
「多分、明日とか誰かお見舞いにくるんじゃない?」

 字幕朗読とは、洋画など吹き替え版の無いフィルムやDVDの場合に、声優ボランティアの皆さんで、セリフを読み録音した音声を音声ガイドと共にラジオで流すのである。
声優ボランティアに参加してくださる皆さんは、俳優養成学校の学生さんや一般の方、もちろん視覚障がい者も多く参加している。
 
「じゃあ、明日まで待つか~。」チェッと言う顔をして、祐一はうらめしそうにチラシを眺めた。

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