みんなで踏み出そう! 明日への一歩を 10
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「お父さん、『どら平太』の音声ガイドモニター、無事に勤められました。見守ってくれてありがとうね。」
勢津子は、夫の遺影に話しかけている。
「孫の周人も、立派に育っていますよ。きっと生きていたら、可愛くって仕方がなかったでしょう。娘が結婚する時、あれだけ反対して、結婚式では男泣きに泣いて…。今では懐かしい思い出ですね。私は、あなたが泣いたのを見たのはその時だけでしたね。両親が亡くなった時も泣かず、取り仕切っていたものね。少々冷たいかしら?とも思ったけど、無言でじっと遺影を見つめるあなたの眼差しを見た時、あぁ、あなたなりに悲しんでるのねと思って、その男っぷりに改めて惚れ直しちゃったのよ。…あら、恥ずかしいわね。それじゃあ、今日も1日、見守っていてくださいね。」
「おばあちゃん、そろそろ出かける時間だよ。」
映画祭の成功を祈願して、両国にある江島杉山神社にお参りに行くのである。
江島杉山神社とは・・・。
視覚障がい者に、針、按摩を職業としてあたえた杉山和一総検校を祀った神社で、点字による石碑などがある。(江島杉山神社公式ホームページ http://ejimasugiyama.shin-to.com/)
「周人は、今日はさっちゃんも一緒だね。」
「うん。」周人は恥ずかしそうにうなずく。
二人の出会いは、『どら平太』の勉強会。
さっちゃんのママが、エルザと七海の大学の先輩で同じサークルだったことから見学に来たのである。大人たちの中に交じって、子どもが二人。当然、大の仲良しになった。